社会の中の【仏教用語】他⑦方便(ほうべん)

社会の中の【仏教用語】他

 さて前回ご説明した【一大事】(いちだいじ)を記された経典の巻(まき)ですが、「方便品」(ほうべんぼん)と申します。品とは仏教では一つの纏まり、あるいは種類の意味として用いられ、紙が貴重な時代には長いお経は一編に書写することも出来なかったので、現在でいうところの文章の章立て、あらすじ、段落ごとに一巻き一巻き書写することを前提に著されたものと思われます。
 よって「妙法蓮華経」は計二十八品(にじゅうはちぼん)、二十八の巻からなり、「方便品」は「序品」(じょぼん)につづく第二品、二十八品全体から見ても極めて重要な部分を担っている章と言えましょう。
 ちなみに「上品」等の言葉も、これら仏教経典から派生した言葉と言えましょう。
 一般では「うそも方便」として知られる「方便」ですが、原語のサンスクリットでのウパーヤ、到着する、近づくの意を漢訳されたもので、仏教経典内では、あくまで衆生(しゅじょう)多くの人々をして、臨機応変その機に応じて、様々な方法で目的地に導く巧みな手段として用いられます。
 ただし経典内に於いて弟子に、命と倫理について問われた際にお釈迦様は、燃え広がる火宅の中に残された子供が、そうとは知らず無邪気に遊んでいる姿を見て、子供の命を救うべく、その遊びから気をそらし外に出すため甘言を弄したからといって、誰がその恩人を謗(そし)ることができようか、と説かれました。
 「嘘も方便」とは、経典内で大事な命を救うために用いた巧みな方法の意として伝えていた内容を、敢えて目的の為には手段を選ばずと曲解した表現と言えるかもしれません。