講座(4)『修証義』の教え㉜

仏の教え

 〇諸仏の常に此中に住持(じゅうじ)たる、各各の方面に知覚を遣(のこ)さず、群生(ぐんじょう)の長(とこしな)えに此中に使用する各各の知覚に方面露(あらわ)れず、是時十方法界の土地草木牆壁瓦礫(しょうへきがりゃく)皆仏事を作すを以て其(その)起す所の風水の利益に預る輩(ともがら)、皆甚妙不可思議の仏化(ぶっけ)に冥資(みょうし)せられて親(ちか)き悟を顕(あら)わす、是を無為の功徳とす、是を無作の功徳とす是発菩提心なり。

【用語解説】
 住持(じゅうじ)=世にとどまり「住」、仏法を守り保つ「持」こと。住職の語源、住持職。
 牆壁瓦礫(しょうへきがりゃく)=土塀、土壁、瓦、小石等、転じて極小の塵から広大な宇宙まで全ての事象。
 無為(むい)=人々の思慮を差し挟まないこと。
 無作(むさ)=人為的働きを加えないこと。

【本文解説】
 此の中とはまさに十六条戒の仏戒であり、歴代の諸仏諸祖も皆これらの仏戒を授かり保ち伝えてきたのである。故にこの仏戒を守り勤めて、しかもその意識さえも払拭(ふっしょく)して、而然(じねん)として勤めることができたならば、畢竟(ひっきょう)各人もまた意識の有無に関わらず、その生滅以前、あるいは以後にも、その大事の中で生かされていることを知り、この戒めそのものが仏の精神でもあることを理解するのです。
 そのお釈迦様が示された戒めは、決して人間としての生活を極端に規制するものではなく、かえって天地自然との調和を重んじ、各々が自分らしく有意義に生活するための規範として設けられたものであり、大切に守り勤めたからといって、精神的にも肉体的にも何ら支障をきたすことのないよう、説かれているのです。
 このような心持ちに至るまで勤められるならば、今まで身近すぎて、あるいは親しすぎて気付かなかった天地自然や、己を取り囲む周囲環境等の尊さにも目覚め、その姿の中にも仏の精神を見出すことができるのです。
 そして、それら無限の仏の姿や心に導かれて、自他共にまた本来尊い存在であったことを知るのです。
 これこそが仏の戒めを守り勤め、保ち伝えることにより得られる功徳であり、よこしまな思慮分別も、作為的なはからいも加える必要の無い、人が人として元来あるべき尊い境涯なのです。以上ここまでが「受戒入位」の内容となります。 つづく
            
           
凡そ30年前に檀信徒より御喜捨された仏殿(羅漢殿)前の大香炉。台座と被せを住職の考案設計を加えて新たに作製し、中には現在では貴重になりつつある藁灰20㎏が収められている。