講座(2) 葬儀式の内容「本葬儀③」

仏の教え

 ロ、「三聚浄戒」(さんじゅじょうかい)
   ①摂律儀戒(しょうりつぎかい)
   ②摂善法戒(しょうぜんぽうかい)
   ③摂衆生戒(しょうしゅじょうかい)
 摂(しょう)とは、集め修める、含む、統率する等の意があり、律儀(りつぎ)とは一般的には、りちぎと呼び習わされている言葉で、特に儀は、形よく整った人の行い、また見習うべき手本の意味をふくんでおり、摂律儀戒(しょうりつぎかい)とは、正しい手本にしたがい、道理に適った行いや生活を心がけ、悪事、悪心に染まらないことをいいます。単純に申せば悪事をしないことをいいます。
 善法とは、仏語では善知識(ぜんちしき)と申しますが、よき師匠、先達にしたがい、天地の法則である道理(ことわり)に添った生活をすることを摂善法戒(しょうぜんぽうかい)といい、分かりやすく言えば、良いことをするという意味になります。
 仏教では度々用いられる用語で、生きとし生ける全ての命あるものの意をもつ、衆生(しゅじょう)全体のことを深慮し、そのバランスにまで考えを廻らせることを摂衆生戒(しょうしゅじょうかい)といい、簡単に申せば役立つことをする、という意味になります。

 ハ、「十重禁戒」(じゅうじゅうきんかい)
   ①不殺生戒(ふせっしょうかい)
   ②不偸盗戒(ふちゅうとうかい)
   ③不貪婬戒(ふとんいんかい)
   ④不妄語戒(ふもうごかい)
   ⑤不酤酒戒(ふこしゅかい)
   ⑥不説過戒(ふせっかかい)
   ⑦不自讃毀他戒(ふじさんきたかい)
   ⑧不慳法財戒(ふけんほうざいかい)
   ⑨不瞋恚戒(ふしんにかい)
   ⑩不謗三宝戒(ふぼうさんぼうかい)
 さて十重禁戒とは、十箇条にわたる重要な戒めということです。①~③は、ことさらな殺生や、他の物をむやみに欲したり、色欲におぼれた行為等を戒めております。
 ④不妄語戒とは、社会的様々な余波を蒙ること等によって生ずる、一時の自己を見失った感情から発せられるような言説を戒める教えです。
 ⑤不酤酒戒については、特に「酤」の字をめぐり古来様々な解釈がありますが、浸る(ひたる)と解釈すると理解し易いと思われます。すなわち、お酒に浸り溺れて自他共に、惑わせることを戒めております。
 ⑥不説過戒は、特に仏教の繊細さを表した戒めで、どんなに自らの思慮言説が正論だとしても、他の意見や思いを問い詰め過ぎてはならない、と示しております。
 ⑦は自らを誇り讃じながら、他を傷つけるような言動を示し、⑧不慳法財戒の「慳」とは、己や自己が獲得した物を出し惜しみ、かたくなになる心を表し、⑨不瞋恚戒の「瞋恚」とは、心作用の一つを表現した仏語で、燃えたぎるような怒り、憎しみを意味し、そのため自らをも燃え尽くしてしまう、見失ってしまうことの表現とされております。
 ⑩不謗三宝戒こそは、仏教徒の根幹にして一番の大事とするところであり、仏法僧(ぶっぽうそう)の三宝(さんぼう)を自他を含めた教えとして敬い、自らも勤め生活する覚悟を養い、決して疑ったり、そしったりすることがないように、重ねて注意を促しているのです。

 以上、イ・ロ・ハの「十六条戒」(じゅうろくじょうかい)を示しおわるに至って葬儀式の御導師は、
 「これらの儀式により、十六箇条の仏戒をお授けいたしましたが、お釈迦様よりその教え、法を受け継いで来られた祖師方は皆、等しく仏の位につき更に、次の世代に授けてまいりました。すなわち仏は皆この戒めを、受戒をされまた授戒をして、仏が仏に授け続けてこられた混じりけの無いしるしであり、今日この日、「難値難遇」(なんちなんぐう)にして私にまでおよんだものです。これらを而今、あなたにお授けいたします。その身心がともに仏自身となるまで守り保って赴かれますよう祈念いたします」
 という内容の文言をお唱えし、「授戒」の儀式を修了いたします。
随喜御寺院様方の控室も兼ねる「大方丈」(だいほうじょう)