講座(3)『摩訶般若波羅密多心経』の教え①

仏の教え

 『摩訶般若波羅密多心経』(まかはんにゃはらみたしんぎょう)は、一般的には『般若心経』と呼ばれ、宗派を問わず多くの方々に親しまれているお経です。
 また、その教えには仏教の根幹の一つでもある「空」(くう)思想が説かれ、様々な仏語の基本用語が含まれていることから、仏教を学ぶ際の指南書の一つとして、用いられることも少なくありません。
 そこで今回は、お経の内容だけでなく、そこで用いられる仏教用語の解説も含めて、はじめに『摩訶般若波羅密多心経』の本文を、さらに書き下し文と用語解説、本文解説の順に記してまいります。

 〇『摩訶般若波羅密多心経』(まかはんにゃはらみたしんぎょう)
 【用語解説】
  「摩訶」  =大・多・勝の三義。
  「般若」  =智慧(ちえ)=無分別智
  「波羅蜜多」=到彼岸(とうひがん)=六波羅蜜
   ①布施(ふせ)能力惜しまない
   ②持戒(じかい)戒律を守る
   ③忍辱(にんにく)堪え忍ぶこと
   ④精進(しょうじん)正しい努力
   ⑤禅定(ぜんじょう)心を安定させること
   ⑥智慧(ちえ)偏りなく判断すること
 【本分解説】
 「摩訶」とは梵語「マハー」の音写語で、大きく勝れた沢山の功徳があり、自我の思量分別では計り知れない深遠のところを表しています。摩訶不思議(まかふしぎ)も本来は仏語をもととし、人間の思議では大きすぎて計り知れない意を示す言葉です。
 「般若」も同じく梵語「パーンニャ」の音写語で、智慧(ちえ)を示します。「波羅密多」も梵語「パーラミター」の音写語であり、日本語訳ですと到彼岸(とうひがん)、すなわち、此岸(しがん)であるこちらの岸から、仏のさとりの境涯である彼の(かの)岸に到ること、また、その修行方法ということになります。
 この彼岸に渡るための方法を仏教では、六波羅密(ろっぱらみつ)と称して六項目に分類しております。この部分については行事のお知らせ、「開山忌・檀越家春彼岸会」でもご説明させていただきましたので、ご高覧頂ければ有難く存じます。
 「心」とは、人の心と同時に物事の中心でもあり、大切という意味になります。また「経」は、仏の教えをまとめた経典のことを示しております。
 ちなみにこれら経典を集め納めたものを経蔵(きょうぞう)、定めや規則事を記し集めたものを律蔵(りつぞう)、経典の注釈、研究書を納めたものを論蔵(ろんぞう)といい、古来これらをまとめて経・律・論の三蔵(さんぞう)と称されております。西遊記でお馴染みの玄奘三蔵は、いうまでもなく、僧としてこれら経・律・論全てに精通しておられたので、三蔵法師と尊称され、呼ばれているのです。
 さて以上のことから、『摩訶般若波羅密多心経』とは、仏の世界に赴くための、深遠にして大切な智慧や方法を説かれた教典、というほどの意味になるでしょう。
            
            
正安寺境内湖畔の花々。