講座(3)『摩訶般若波羅密多心経』の教え②

仏の教え

 〇観自在菩薩。行深般若波羅蜜多時。照見五蘊皆空。(観自在菩薩が、深く般若波羅蜜多を行じし時、五蘊は皆空なりと照見し、)
 【用語解説】
  観自在菩薩=観世音菩薩
  菩薩=菩提薩埵(ぼだいさった)
  五蘊=
   ①色(しき)色形を在する存在
   ②受(じゅ)感受作用
   ③想(そう)表像、思い浮かぶこと
   ④行(ぎょう)心起衝動
   ⑤識(しき)識別作用
  空(くう)=無自性(むじしょう)
 【本文解説】
 観自在菩薩の「観」は、目のみにて物事を見ることではなく、眼(げん)・耳(にっ)・鼻(ぴ)・舌(ぜっ)・身(しん)・意(に)の六根(ろっこん)を含め、心と体全体を用いて、注意深く観察することをいいます。
 行者が山中にて唱える「六根清浄」(ろっこんしょうじょう)なるかけ声は、物事に注意深く臨んで、万一を避け、その行を遂行するにあたり、自らの六根等身体機能を欲心で曇らせないためなのです。
 観自在菩薩とは、観音様の別名であり、私達衆生(しゅじょう)、生きとし生けるものを注意深くまた、正しく見守り、その働きが自由自在であるとことから、名付けられた呼称です。
 私達衆生の側からは、それぞれの思いや苦しみ、悩み等の音声(おんじょう)を聞き届けて下さることから、親しみを込めて観世音菩薩様とお呼びするのです。
 菩薩とは梵語である「ボーディーサットバ」菩提薩埵を略した言葉で、仏の教えによって智慧を探求する修行者のことを示します。
 行深とは、真剣に向き合って行うこと、般若は智慧、波羅蜜多は到彼岸、先に記した通りです。照見は、物事を正しく理解し受け止めること、見極める力のことをいいます。
 五蘊(ごおん・ごうん)とは、仏教で説かれる認識世界を五項目に分けたもので、色形を在する物質的存在を①色、それら世界を認識する精神作用を②受③想④行⑤識としたものです。
 要約すれば、「観音菩薩様が、仏の教えに真摯に向き合い、六波羅蜜等の修行を遂行されたときには、精神をも含めてこの世のあらゆる物事は、みな「空」、すなわち種々の因子や縁との結びつきによって、かりそめに存在する希有なるもまた、はかない存在であり、永久不変たるものは一つもないことを見極められ」、という内容になります。
正安寺伽藍裏面の花々。