社会の中の【仏教用語】他⑧娑婆(しゃば)

社会の中の【仏教用語】他

【有頂天】【安心】【玄関】【自由】【天井】【未曾有】【愚痴】【引導】【化身】【覚悟】【四苦八苦】【内緒話】【娑婆】【洗面】
【大丈夫】【歯磨き】【料理心得】【迷惑】【退屈】
 私達が普段使用している日常会話の中にも仏教用語、あるいは仏教に関連して派生した上記のような文言が多様されています。
 今回はその中の【娑婆(しゃば)】と【四苦八苦(しくはっく)】について解説したいと思います。
 娑婆はお釈迦様在世当時の言葉、サーハの音写語で現代語訳すれば「堪忍土(たんにんど)」、いわゆる堪え忍ぶところとの意味になります。
 経典の中では多く「娑婆世界」の文言で、この世の中を表していますので、2500年以前の人々もこの世の中を決して嬉し楽しく喜びに満ちた出来事ばかりだとは考えていなかったと思われます。
 むしろ苦しく悲しく辛い事も多く経験せざるを得ない世界と考えたからこそ、救いの拠り所として仏教が発生したとも考えられます。
 お釈迦様の教えの根本となる「四諦八正道(したいはっしょうどう)」の教えも「苦・集・滅・道」の苦を初めに掲げていることからもそれは窺えます。
 その苦しみを仏教的に大別分類したものが【四苦八苦】となります。
四苦(しく①~④)八苦(はっく①~⑧)
①生(しょう)
②老(ろう)
③病(びょう)
④死(し)
⑤愛別離苦(あいべつりく)
⑥怨憎会苦(おんぞうえく)
⑦求不得苦(ぐふとっく)
⑧五蘊成苦(ごおんじょうく)
 詳細については仏の教え、「般若心経」の解説をご覧いただくとして、ここでは本人の意識外であったとしても、いかに日本人の言語や文化や習慣の中に【仏教】の精神が染みこんでいるかという、事実を知っていただければ充分と思われます。
 まれに「無宗教」や「無信心」をことさらに喧伝する方をお見受けしますが、それらの日本語を使用していることこそが、既に仏教文化の中で浸って生活してきたという、己の証明なのです。
 朝目覚めて【洗面】し、【歯磨き】する習慣も実は僧堂、いわゆる僧侶の育成機関である修行道場の分刻みのスケジュールから派生したものといわれており、日本の場合には会社組織の役職も僧堂の役寮職、【貫首】【方丈】【監院】【副寺】【後堂】【単頭】【維那】等を基にしたものとも謂われております。
 また仏教の根本でもある「空」や「諸法無我」の見知から論ずるならば、無を示したときには有を認めたこととなり、有を論ずれば無についても語ることになるからです。
 有無や上下、左右等、反対を意味する対語は紙の表裏の如く、一方の意味が有ってはじめてもう一方も存在出来うるという事実を含んでいます。無宗教を標榜したその瞬間に、有宗教を自身が認めたことを意味します。
 前述している通り仏教は理解する教えでは無く、「認得」すべき教えであることを述べてきました。有宗教を認得しながらなお己を無宗教と標榜するのは、生まれてよりこのかた地球の大気の恩恵にあずかりながら、空気などは目に見えないから存在しないと、言うことと同義とも言えましょう。
 仏教はあくまで極端から極端に振り回されたり、走らされないために心の中心に「空」の事実、「中道(ちゅうどう)」を構えておくための教えであり、決して極端な論調に振り回され悩まされる必要はありません。
正安寺発行の「生前御戒名証書」
証書の中に御戒名の證明書。
毎年正安寺から檀越家に送付される「正安寺便り」他。